タイトル 会計力と戦略思考力 ビジネスモデル編
出版社 日本経済新聞出版社(日経ビジネス文庫)
著者 大津広一
価格(税別) 800円
中小企業経営者 ☆☆☆ ☆
中小企業診断士勉強者 ☆☆☆
<内容>
今回も日本生産性本部の鍜治田先生の推薦本です。代表的な企業の決算書を使って、事業体系や業態などの特徴を説明しています。
(Stage1)三越伊勢丹VSユニクロVSしまむら
・アパレル小売業の決算書の姿を決するのは、客単価や店舗数の多寡ではなく、SPA化の浸透度.
・SPA小売業は高い総利益率&高い販管費率、非SPA小売業は低い総利益率&低い販管費率の傾向が表れる。
・企画・デザイン力、ブランド力・販売力、在庫リスク、資金繰りなどのすべてのハードルを乗り越えたSPA小売業だけが謳歌できる高い利益率。
・SPA化を目指す小売業が増加しつるある昨今、決算書の姿も少しずつ似たような姿に近づいていくことが予想される。
(Stage2)ABCマートVSニトリVSJINS
・SPAの高い総利益率は、靴、家具、メガネなどのアパレル以外の商品にも応用できる。
。SPA小売業は、人件費、家賃、広告宣伝費を中心とする販管費に多額の費用を投下することで高い総利益率を実現するし、高い総利益率があるから多額の販管費を投下することが可能となる。
・SPA小売業は大量発注による大量在庫を保有するが、そこに高いマージンを載せて販売できることまで加味すれば、決して過剰な在庫と呼ぶ水準にはない。
(Stage3)ウォルマートVSH&M
・海外企業であってもSPA小売業であれば、高い総利益率&高い販管費率という類似の決算構造が生まれてくる。
・EDLP(低価格)が戦略の小売業は、総利益率が低くなる代わりに販管費率を下げることで、営業利益を確保する決算構造となる。これもまた、国内・海外問わず、類似の戦略であれば、類似の決算構造となる。
・保有する資産からどれだけ効果的に利益を生み出しているかを表すのはROAであり、事業の成否を評価する上で、最も大切な指標といえる。
(Stage4)イオンリテールVSイオンモール
・在庫が関連する事業で最初に問いかけるべき質問は、「その会社は、商品在庫のリスクを負っているのか?」「売れ残った在庫の責任は、その会社が負っているのか?」
・自ら在庫リスクを負って販売する小売業が、商品取り扱い高を売上として計上できる一方で、小売業にスペースを貸すショッピングモール企業は、リアル店舗やネット店舗にかかわらず、売上高=家賃となる。
・小売業は仕入れコストが原価となるが、ショッピングモールは不動産賃貸サービス業なので、サービスコストが原価となる。
・スタートトゥディのように、在庫リスクを王事業と負わない事業が混在する企業では、事業ごとに切り分けて商品取扱高、決算書上の売上高、原価の中身、営業利益率を考察することが大切となる。
(Stage5)18のメーカーをROAで斬る
・18のメーカーのROAを、横軸に利益率、縦軸に回転率を取って分解すると、2者の間にはおおむね負の関係性が存在することが判明する。つまり、利益率の高い業界は回転率が低く、利益率の低い業界は回転率が高い傾向にある。
・利益率も回転率も高い「パラダイス領域」に位置している業界はメーカー平均値にはないが、SPA企業はおおむねこの領域に存在している。
・利益率も回転率も低い「地獄エリア」に陥っているメーカーは、差別化されたビジネスモデルへの変革によって、まずは負の曲線に乗せることを目指すことが望まれている。パラダイス領域を目指すのは、それからでも決して遅くはない。
(Stage6)バリューチェーンのどこを担うかが決算書の構造を決める
・ビジネスモデルが類似していれば、決算書の構造も自ずと類似する。問うべき問うべき質問は、何を扱っているかではなく、バリューチェーンのどこを担っているのか。
・アップルのEMS企業鴻海と、セブン-イレブン・ジャパンの受託製造企業わらべや白洋の決算書が、低い班は比率、低い在庫水準、低い総利益率で一致しているのは偶然ではない。両社のビジネスモデルが同一である以上、決算書は自ずと似た構造になっている。
・SPA企業がそのままのビジネスモデルで永続はしないように、受託製造企業のビジネスモデルもまた永続しえないと考えるのが妥当である。売上の大部分が特定の1社に集中する請負事業からの安定収益を確保しつつ、次世代のための独立上場企業としての道を切り拓いていくことが望まれていく。
・受託製造企業がバリューチェーンの川下や川上に進出してSPA企業モデルに近づけば、決算書の構造もSPA企業の姿へと近づいていくであろう。
(Stage7)SPA企業への対抗策を示したマーカーのROAを時系列で読む
・横軸に利益率、縦軸に総資産回転率、円の大きさをROA(総資産経常利益率)として時系列に描くことで、自社のROAの時系列マップが完成する。ROA推移の背景にある経営環境や戦略の変遷を考察するスタートとしよう。
・コンビニのSPA化に対するメーカーの対抗策は、真っ向からの対峙ではなく、SPA企業のPB商品以上に価値のあるNB製品をSPAに対して供給すること。受託製造企業の請負とも一線を画し、あくまで研究開発から行うメーカーでありながら、その製品はSPA企業に積極的に販売するものである。
・カルビーは良質で安価なNB製品をSPA企業に提供するため、規模の拡大によってSPAのPB商品に匹敵るする低価格の実現を目指した。結果として、原価率と販管費率の同時減少によって利益額や利益率の大幅改善を果たし、コンビニ、顧客、株主とのウィン・ウィンの関係を築き上げることに成功した。
・経営改革のリーダーシップと、信頼やバランスを組み合わせ、長期持続可能な経営理念とビジネスモデルを形成することが、企業トップには強く求められている。
(Stqge8)再度のケーススタディは国内最大の複合企業JR東日本
・JR東日本のように事業多角化が進んだ企業は、セグメント情報を開示する義務がある。事業ごとに数値の構造は異なるので、セグメントごとの利益率、回転率、ROAなどを分析することが効果的になる。
・JR東日本では、運輸業が売上、利益、資産、減価償却費、資本的支出の構成比のどれもが全社の約7~8割を占めており、あくまで鉄道が中心の会社。一方で、駅ナカ事業は最も高い資産回転率とROA、駅ソト事業は最も高い売上高営業利益率、その他の事業は最も高いセグメント内部売上と、それぞれの特徴を発揮している。
・JR東日本の駅ナカビジネスのROA(営業利益ベース)は18.5%に達し、SPAに根ざさない小売業としては、とても高い水準にある。首都圏の駅の中という最高の立地と、グループ会社であるがゆえに家賃負担も限定されるkとからなしえる高収益性といえよう。
・JR東日本を、JR東海、JR西日本と比較することによって、同じJRグループとしての共通点と、地域性や戦略の違いからくる相違点が明らかになる。運輸事業は私鉄と、小売り事業や不動産業はそれぞれの専門業者と熾烈な競争を展開しており、打ち勝つことができなければ、顧客は喜んでそれら業者に足を運んでしまう。コンテンツやサービスの飽くなき優位性を追求し、常に新しいビジネスモデルを構築していく姿は、出身母体がとこであっても関係はないのである。
・非メーカーのROAにも利益率と回転率の間に負の関係性が存在する。そこをブレイクしてパラダイス領域に躍進するビジネスモデルを生み出すことが、小売業・メーカー同様に求められていく。
(Stage9)ROAマップから始める自社の決算書分析
・学びを学びで終わらせずに、仕事や生活で活用することを目指す本書では、再度のステージ9で読者自身の会社の決算書を分析する。
・決算書の数値に対して投げかけてほしい3つのキーワード、それはWHY?(なぜそのような数値なのか?)、SO WHAT?(それは自社にとってどういった意味合いがあるのか?)、そしてHOW?(具体的にどのように解決していくか?)
・ROAのブレークダウンによる自社決算書の分析アプローチは、ROAマップを描くことから始める。パラダイス領域、負の曲線近辺、そして地獄エリアのうちのどこに位置しているかを俯瞰しよう。
・売上高経常利益率と総資産回転率への分解に始まりそれぞれを細部にわたってドリルダウンしていく。そうすることことで、自社の本当の強み・弱み、本当の経営課題が明らかとなり、正しいアクションへの結びついていく。
(ADVANCED)
・ROAは万能でなく、三菱食品のような仕入れて売る薄利多売事業だと正しく決算書を評価でない。その代わりにROICを使うことにより正しい評価ができる。最近では、ROAよりもROICの登場回数は、特に海外の企業のアニュアルレポートでは多くなっている。
・ROIC=経常利益÷投下資本(=運転資金+固定資産≒(流動資産ー流動負債)+固定資産)
・DEレシオ(=有利子負債-現預金)÷株主資本)はROAと負の関係にある。
・ビジネスパーソンに問われているのは、3つのキーワード(HWY?SO WHAT?HOW?)を駆使した理論的思考、そこから導き出される具体的なアクションへの意思決定である。
<感想>
業態による決算書の違いをクイズ方式で学ぶことができます。基本的な内容ですが、財務の勉強の第一歩としては面白いと思います。サンプルは大企業だけですが、もし可能なら著者の言うように自社の決算書と比較してみてください。
私は最後のROAとROICの比較が勉強になりました。