タイトル MBAの経営戦略がざっと10時間で学べる
出版社 KADOKAWA
著者 菅野寛
価格(税別) 1,500円
中小企業経営者 ☆☆☆
中小企業診断士勉強者 ☆☆☆
<内容>
日本生産性本部の鍜治田先生の推薦本です。経営戦略の入門編になります。
長いですが、ご覧ください。
Part1 経営戦略とは何か
・戦略とは「あるべき姿を達成するためのアクション」
→「ゴールウを決め、ゴールにたどり着くルートを決め、そのルートを進むのに必要なリソース(資源/能力)を動員すること」
・経営戦略とは「企業を取り巻く環境の中で、企業があるべき姿を達成するために、自らの経営資源/能力を駆使して行う長期的、包括的アクションの体系」
Part2 戦略的思考
・まずはあるべき姿=目的を設定する。目的が定義されていなければ何が問題化もわからない。
・目的と手段を混同しない。より上位の目的を明確に意識する。目的が異なれば、何が問題かも、どんな手段をとるべきかもまったく異なる。
・戦略やアクションを考える際のポイントは、①差別化、②前提を疑う、③集中、④一貫性である。
・ただし、差別化は成功のための必要条件であり、十分条件ではない。また、差別化するためには、業界の常識や前提を疑うことから始める。
・差別化と並んで重要な考え方は集中であり、外部の視点(顧客や提供商品の集中)からも、内部の視点(自社の資源の集中)からも大切である。また集中するためには他の物を捨てる、優先順位を下げることが必要である。
・最後にビジネスの各要素の戦略との一貫性が重要である。
・戦略を考える際には理論的思考、つまり複数の事業の関連性を意識することが重要である。
・そのためには、相関関係と因果関係を混同しない、因果関係の原因と結果を間違えないことが重要。
・また、目的と同じく原因もより上位の原因、つまりより根本的な原因の解明を行わなければならない。そのために、Whyを繰り返す。
・複数の事象の関係がトレードオフか補完かを明確にして、トレードオフの場合はどちらかを捨てる、もしくはイノベーションにて両立させる必要がある。
・事象の関係性を分解するための方法としては、①ツリー分解(因数分解)、②MECE分解がある。
・戦略的に物事を考える際の基本的な思考方法としては、論点を設定し、仮説を立て、検証する方法がある。まず正しい論点(キークエスション)を設定する。この疑問に対する答えを調べる前に仮説を立てる。そしてその仮説を検証する。それにより全てが検証できないビジネスの世界で最善の戦略を取ることができる。
・理論的思考は重要ではあるが万能ではないため、時によってはインサイト(直観、ひらめき、洞察力)と組み合わせて仮説を立て、理論的思考(ロジック)にて検証することも行う。
Part3 戦略のタイプ
・戦略を考える上でいくつかの見方(戦略観)があるが、本書では4つの戦略観を紹介する。
(1)計画(Planning View):戦略の本質は目標に到達するため、組織を動かすための「計画」を作って実行することである。
(2)創発(Emergence View):事前の計画よりも、その時・その場の環境に適応して行動し、その結果成功パターンが事後的に生まれる(創発される)。それを昇華させるのが戦略である。
(3)ポジションング(Positionting View):戦略で重要なのは外部環境を正しく理解した上で、自社が勝てる「ポジション」(立ち位置)を選ぶことである。
(4)リソース(Resource-based View):戦略で重要なのは自社ならではの内部環境/能力を「強み」に昇華させ、「強み」に立脚した打ち手を考え実行することである。
・4つの戦略観は対立概念ではなく、補完的関係であるため、それぞれの戦略の間を行き来しながら戦略を進化させることが大切。
・次に「戦略の単位」を考えると、①事業戦略(事業レベル)、②コーポレート戦略(全社レベル)、③エコシステム戦略(企業群レベル)に分けられる。
・戦略とオペレーションの関係は、戦略が需要で、オペレーションは戦略に従うことになる。
Part4 環境分析
・考えるための枠組みがフレームワークであり、考えるための道具である。利点は、どう考えていいか分からない時に考えるためのガイドラインをくれる。デメリットは、考え方が枠にはまってしまうことである。これらのフレームワーク使い外部環境、内部環境の整理、分析し、採取的に意思決定、アクションを導かなければならない。
・外部環境分析
(1)PEST:P(政治)、E(経済)、S(社会)、T(技術)の4つの視点から整理する→メガトレンドを捉える
(2)5つの力(マイケル・ポーター):①業界内競争の激しさ、②買い手の交渉力、③売り手の交渉力、④新規参入の脅威、⑤代替品の脅威→業界の魅力度、競争の激しさを分析、⑥補完業者、協力業者も検討する
(3)アドバンテージ・マトリクス(ボストンコンサルティンググループ):①規模型事業、②分散型事業、③特化型事業、④手詰まり型事業→収益性と企業規模の関係より事業特性を理解する。
・内部環境分析
(1)VRIO分析:コアコンピタンス(真の強み)を①V(価値)、②R(希少性)、③I((模倣困難性)、④O(組織、仕組み)の4つの視点で分析する。
・内部と外部を統合したフレームワーク
(1)3C:①Customer(顧客、市場)、②Competitor(競合)、③Company(自社)の3つの視線で分析
→①顧客が求めており、②自社が提供でき、③他社が提供できないものを探し出す。
(2)SWOT分析:①内部か外部か
②自社にとってプラスかマイナスかという2つの軸で整理:S(強み)、W(弱み)、O(機会)、T(脅威)
(3)バリューチェーン:企業活動は「顧客に価値を届けるために様々な要素を繋げて運営する活動」であり、個々の活動を価値を生んでいる要素に分解し、個々の要素あるいはその繋がりを分析する。
Part5 事業戦略
・事業を定義するために、①提供価値(どんな価値を)、②顧客(誰に提供するのか)を決定する。
・顧客を明確にするために、STP(セグメンテ―ション→ターゲティング→ポジショニング)を使う。
STPを使い、顧客と競合を決める。競合は同業他社だけとは限らないため、顧客に決めてらう。
・顧客と競合が決まったら競合優位性を探すことになるが、そのために次の5つのマップを使う
①顧客・競合マップ
②マイケル・ポーターの「3つの基本戦略」:コストリーダーシップ、差別化、集中
③コトラーの「競争地位ベースの戦略」:リーダー、チャレンジャー、ニッチャー、フォロワー
④バリューチェーン
⑤ブルーオーシャン戦略
・競合優位性を得るためにはポジショニングとリソース(資源/能力)が必要である:
①能力、②資源(ヒト、モノ、カネ)、③仕組
・競合優位性を持続させるためには、①外部調達困難性、②内部育成困難性、③制度による参入障壁が必要。
・事業成長ステージによって戦略を変えることも可能:①創造期、②成長期、③優位性確立期、④効率性追求期
・プロダクトライフサイクルによって戦略を変えることも可能:①導入期、②成長期、③成熟期、④衰退期
・不確実性に対処するための代表的な視点:①シナリオプランニング、②リアルオプション、③未来を創る
・その他の視点:①ゲーム理論、②マーケティングの4P
Part6 コーポレート戦略
・コーポレート戦略:複数の事業にまたがる「全社レベルの戦略」
・CEOや本社が行うべき仕事は:①事業ポートフォリオマネジメント、②事業間の資源再配分
③事業間のシナジーマネジメント
④全社事業ドメインの設定とマネジメント
⑤全社ビジョンの作成と徹底、⑥全社組織の設計と運営
・事業拡張は、既存事業の強みから、アンゾフの成長ベクトルを参考に。
・PPM(ポートフォリオマネジメント)で、事業間の資源再配分を行い、事業群をマネージする。
・複数事業によるシナジー効果を目指すが、多角化が常にシナジー効果を生み出すとは限らない。
Part7 戦略の実行
・実行を理解するための3つの視点:①実行のための要素、②移行(Migration)、③ビジネスモデル。
(1)実行のための要素:オペレーションに必要な7要素:これらの要素全てを整合させる。
①プロセス:誰が、いつ、何をするのか
②組織
③組織のミッション・責任・権限
④モニター・評価・賞罰
⑤組織能力
⑥コミュニケーション
⑦企業文化・価値観
(2)あるべ姿への移行プランを実行する
・移行プランは詳細に作りこむ
・司令塔を設置して移行を管理する
・戦略事項のための概念をモデル化:「7Sモデル」:①戦略(Strategy)、②構造(Structure)
③システム(System)、④スタッフ(Staff)
⑤スタイル(Style)、⑥スキル(Skill)
⑦共通の価値観(Shared Value)
(3)ビジネスモデルの構築
・ビジネスモデルキャンパス:戦略・実行・収益構造を統合したビジネスモデル作成のためのフレームワーク。
以下の例はBiZ Makeより(https://media.bizmake.jp/method/about-bmc/)
・単にビジネスの仕組みを作るだけではなく、「収入構造」「コスト構造」を作り出すことが必要。
Part8 「知」と「イノベーション」
・質の高い戦略を立案・実行するためには、情報を戦略に転換する「知」が必要。また、競争優位性の高い戦略を構築するには、今までとは異なる新しいや見方・やり方である「イノベーション」が求められる。
・これまでも戦略を立案するためには情報収集が大切であったが、これからは単に情報を集めるだけではなく、解釈し、戦略に転換することがより大切である。その転換のために必要な要素が「知」であり、「知」の創造が大切であると考えるのが「ナレッジ・ベースト・ビュー/知識ベースの戦略観」である。
・知識には「形式知」と「暗黙知」があり、「形式知」は万人に理解できる知識であるため模倣可能で、競争優位性の源泉にはならない。「暗黙知」を活用するためには、①「暗黙知」の形式化(形式知への転換)、②個人から組織へ(共有化)が必要になる。
・知の想像モデルとしてSECIモデルがある:①共同化(Socialization)、②表出化(Externalization)、③連結化(Combition)、④内面化(Internalization)。
・イノベーションは異なる知の組み合わせ。異なる知を獲得する方法としては、①異なる知を外部に求める:知の探索、オープンイノベーション、②異なる知を内部に確保する:ダイバーシティ。
・知のマネジメントには「知の探索(横方向)」と「知の深化(縦方向)」がある。これらに必要な人材や価値観は異なる。両方をマネージして企業として持続、成長しよういう経営戦略が「両利きの経営」である。次の3点をマネージすることが重要:①整合性(ビジョン、人、組織、文化)、②ステージによって変える、③両利きの経営(明確な全体戦略、経営陣のフルコミット、検索と深化の割り振り、共通なビジョン・価値観の醸成)
・ダイナミックケイパビリティ:組織が自ら学習し、能力を身につけ、戦略・組織を能動的に進化する能力。以下の4つが必要。
①オーバーエクステンション
②SECIモデルを廻す
③(機会や脅威を)感知→捕捉→転換(自分のものにする):プロセスや仕組みの構築
④シンプルルール
Part9 「DX」と「パラダイムシフト」
・これまでの経営戦略の前提を覆す可能性がある「DX]と{パラダイムシフト」。「DX」とはデジタル化により産業構造や競争原理が根本的に変革されることであり、「パラダイムシフト」は社会全体の規範・価値観が劇的に変化することである。
・デジタル化による変化の例:①バリューチェーンの要素の入れ替え
②レイヤー化(オープン化したVC上で特化)→プラットフォーム構築→エコシステム構築
③ビジネスの構造(アーキテクチャー):すりあわせ型(Integral)→組み合わせ型(Modular)
・パラダダイムシフトの例:①SDGs、②ESG、③CSV(Creasting Social Value)
<感想>
経営戦略を一から復習したい、一から習いたいという人には良いまとめ方だと思います。ある程度分かっている方には物足りないかもしれませんが、その時その時に新しい考え方が出てきますので、良く分かっている方もたまにこのようなレベルの本も読んでみるのも良いと思います。結構ところどころに新しいコンセプトが入っています。
私は、ビジネスモデルキャンパスは知っていましたが、再度見て使えるのではとの気づきがありました。
この本の使い方に説明があったように、入門編でも読んでみて、興味がある事項はさらに読んでいくという読み方が良いと思います。